論理の効用
sivadさんが、レトリックの効用 というエントリーで、内田先生の空文の効用 について書いていて、興味深く読んだ。そして、いくつか疑問を感じた。先生の当該エントリーについてはオカダも論理という道具 でちらっと触れたことがある。
内田先生の、
世界中に平和憲法がこれだけあるのに、世界からは戦争がなくならない。
だから、平和憲法は空文である。
ここまでは推論として間違っていない。
という文章についてsivadさんは、
一見論理的に見えるこの文章。実は、大きな論理的接続を欠いています。つまり、A→Bに見えるけれど、本当はA→(B)→Cとなっていて、Bは巧妙に隠されているのです。
さあ、「B」がお分かりでしょうか。
答えは、「平和憲法は世界から戦争をなくす効果を果たすものである」という命題です。
すなわち、本来は「世界中に平和憲法がある→平和憲法は世界から戦争をなくす効果を果たすものである→世界からは戦争がなくならない→よって憲法は空文」となるはずのものが、途中をすっ飛ばされているわけです。
「平和憲法は世界から戦争をなくす効果を果たすものである」は自明だろうという方ももしかしたらいるかもしれませんが、「平和憲法」とは基本的に「自国の戦争の放棄」を謳ったものであって、これは論理的には「世界から戦争をなくす効果を果たすもの」とはなり得ません。この辺りは当該エントリへのbewaadさんのTBhttp://bewaad.com/20050517.html#p03がよく説明してくれていると思います。
従って、この文章は本来Bの時点で論理的に破綻しており、その後の議論は無効になるわけです。しかし、レトリックによってそれを気づかせないのは、流石というべきでしょう。
まず、『「平和憲法」とは基本的に「自国の戦争の放棄」を謳ったものであって、これは論理的には「世界から戦争をなくす効果を果たすもの」とはなり得ません。』という点について。
戦争とは、辞書的な意味で言えば基本的に2国間の武力による争いのことだ。片方の国が戦争の放棄を宣言(もちろん、自衛権は放棄しない)した場合、もう一方の国は、それを100%信用することはないにしろ、攻撃を受ける可能性は低下するので、緊張状態が緩和され、ある程度戦争をなくす効果をもたらすのではないだろうか。もちろんこれは一般論であるが。
bewaadさんのエントリー では、もし戦後アメリカが朝鮮戦争に参加しなかったら、あるいは日本を占領しなかったら、9条は戦争をなくす効果を持ち得なかっただろうという特定の事例の、それも仮定の話をしているが、『「平和憲法は世界から戦争をなくす効果を果たすもの」とはなり得ません』という命題を論証しているものとは読みとれなかった。
さらに、再度引用するが、
世界中に平和憲法がこれだけあるのに、世界からは戦争がなくならない。
だから、平和憲法は空文である。
sivadさんは『「平和憲法」は「世界から戦争をなくす効果を果たすもの」とはなり得ない』故にこの文章は論理的に破綻していると書いているが、そもそもこの文章は、改憲論者の主張の前提となっているものであり、内田先生はその主張を反証するためにとりあげたものである。先生は「ここまでは推論として間違っていない」と書かれているから、それを肯定してはいる。従って、「平和憲法」は「世界から戦争をなくす効果を果たすもの」とはなり得ない』という命題が正しいとすれば、先生の「空文の効用」自体が意味のないものになるということにはなる。
しかし、そうだとしても、「内田氏の文章は、実は見た目ほど論理的ではありません」ということを論証するために、先生が反証している相手の、主張の前提の文章について取りあげるというのは、あまり意味があることとは思えないのだが。
また、エントリーの後半部分で、sivadさんは『しかし、そのあと日本国憲法はその「空文」を宣告された不戦条約の条項を再び掲げることによってとりあえず戦後60年間戦争をしないできた。』ということは既決事実ではないと主張されている。
これがよくわからないのだが、bewaadさんがエントリーで書いているように「憲法9条は空文ではない」という意味なのだろうか、『「戦後60年間戦争をしないできた」というのは事実ではない』という意味なのだろうか、それとも『「戦後60年間戦争をしないできた」のはアメリカのおかげである』という意味なのだろうか。


Comments
直接岡田さんの文章に言及はしなかったのですが、同じような問題意識を持って読んでもらえるのではないかと思い、トラックバックをしました。
いただいたトラックバックのお礼のようなものとお考えください。
Posted by: 秀 | 2005.06.10 at 01:36 AM
秀さん、御丁寧にトラックバックありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。
Posted by: オカダ | 2005.06.10 at 05:49 PM