村上龍『半島を出よ』
今さらの感はあるが、村上龍『半島を出よ』幻冬舎 を読んだ。読み始めて非常に興奮し、睡眠時間を削って(といっても1時間程だが)、1週間かかって読了した。
北朝鮮をテーマにしたところは、さすが時代に敏感な村上龍だ。北朝鮮の反乱軍が福岡を占領するという発想は、非常にユニークかつ壮大だ。
そして、その発想に基づいて展開するストーリーを緻密に描写して見せた作者の力量には、感服せずにはいられない。
何より優れているのは、北朝鮮の兵士達の心情や背景が詳細に書きこまれているため、彼らも1人の人間として身近に感じることができたということだ。@は、ソウルで大勢の脱北者から聞き取りを行ったということだ。そして巻末にも掲げられている膨大な資料も読み込んだとのことで、それらの成果がよく表れていると思う。
確かに、登場人物が非常に多く、章によって主役が入れ替わるため、読みづらい点もあった。もう少し簡略化した方がよかったかもしれない。
昨年10月福岡に出張して、福岡ドームとシーホークホテルの傍を通ったので、小説の舞台を思い浮かべながら読むことができたのは幸いだった
内田樹先生も『亡国のイージス』を観るで、この本について言及されている。
「戦争ができる人間」とは、軍事的バランスシートの上ですべてを計算して、そこに「人間の顔」を見ないでいられる人間のことである。
そんな人間は今の日本にはいない。北朝鮮テロリストに占拠された福岡の街を自国民もろとも破壊する決断をする政治家がいないせいで、日本政府は屈辱的な領土割譲に応じることになる。
作者も、登場人物の1人に、「何かを選ぶということは、他のものを捨てるということだ」と語らせている。
今後難しい選択を迫られたとき、果たして「戦略的な思考ができる」政治家が指導者でいるだろうか。我々国民の側も、冷静に事態の推移を見守ることができるだろうか。


Comments
オカダさん、こんにちは。
村上龍さんの本は一度も読んだことがないのですが、テレビで拝見する限りでは、村上さんは今の時代をよんで、そしてこれからの時代を背負う若者たちに意見するけれども彼らに向けてる視線はあたたかい、っていうイメージです。
戦争、以前は祖父母などから過去の戦争の話を聞いて、2度と過ちは犯すまいといった話をしていたのが、今は過去のじゃなくて近い将来起こるかも知れない戦争の話をしてて、悪い意味で戦争が身近になったようです。
Posted by: ciao* | 2006.01.21 at 11:04 AM
ciao*さん、こんばんは。
確かに龍さんは、「今の時代」に拘った小説を多く書いていますね。その中で、特に社会をはみだした若者を共感をもって登場させています。
それに対して春樹さんは、あまり、「今の時代」には拘ってないようです。
しかし2人とも長く活躍してますね。
この前読んだ本に、「人類最大の教訓は、『人間は過去を忘れるものだ』」という一節があって、なるほどと思いました。特に9.11以降、戦争が身近になりつつある気がしますね。
Posted by: オカダ | 2006.01.23 at 06:28 PM
はじめまして。金さるさんのところからきました。
村上龍さんが今の若い人達にすごくわかりやすく道しるべを示してくれているのに対して、春樹さんは私たちを取り巻いている危険なものに自分を壊されないように自分の目を持つことを呼びかけていると思います。
ねじまき鳥を再読して思いました。それ以前の長編にはそういうメッセージのようなものは感じなかったんですが。
オカダノボルさんというお名前、ねじまきでは他人事ではない気がされたことでしょうね!
Posted by: akiko | 2006.01.28 at 09:44 AM
akikoさん、こんばんは。コメントありがとうございました。金さるさんのところではよく拝見しておりました。
確かに『ねじまき鳥~』には、春樹さんのそういうメッセージみたいなものが感じられましたね。
オカダノボルはハンドルネームでして、「ワタナベノボル」さんから借用しました(^_^)。
Posted by: オカダ | 2006.01.30 at 07:41 PM