『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか 』
桜が終わって、チューリップが満開。春も、やがて初夏へと急いでいるように感じられる。
そんなおり、複数の雑誌や新聞で紹介されているのを見て、岡田芳郎 『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか 』 講談社 といういささか長い題名の本を読んでみた。
「世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男」の名は、佐藤久一。彼は名門酒造会社を経営する父に請われ、若干20歳にして「グリーン・ハウス」という映画館の支配人となる。そして彼は、持ち前のサービス精神と発想力、実行力で、酒田の人々に映画を最高の状態と雰囲気で観てもらうことに心を砕き続け、ついには淀川長治をして「世界一の映画館」と言わしめるほどになる。
久一がこだわりをもって選び抜いた上映作品の数々、最新の映写音響設備、女性客を意識したきれいなトイレ。こんな映画館が近くにあったらオカダも通い詰めてしまうだろうなあ。
しかし久一は、やがて「グリーン・ハウス」も妻子も捨てて、女性と一緒に駆け落ち同然で上京してしまう。そして日生劇場のレストランで働くことになる。それから父に呼び戻され、今度はフランス料理店を始めることになるのだ。
久一の生き方の、なんと情熱的なことか。寝食を忘れて仕事にのめり込み、また魅力的な女性たちとの出会いがあり、67歳の生涯を全速力で駆け抜けたように見える。オカダの平凡な人生とは対極にある感じだ。そしてこの本の著者も同じように感じ、それ故に久一の人生を追いかけてみることにしたのだという。
もちろん、造り酒屋の御曹司という恵まれた環境にあったからこそなしえた面もあっただろうが、自分のやりたいことをとことんまで追求する精神には、感嘆するほかない。人口10万人の地方都市に、このような人物がいたということにも驚かされた。これも酒田の持つ底力なのだろう。
久一のような人が当地にもいてくれたらなあ、なんてついつい思ってしまった。


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