« 『米原万里の「愛の法則」』 | Main | 『めがね』 »

2008.04.23

『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか 』

Tulip04161

桜が終わって、チューリップが満開。春も、やがて初夏へと急いでいるように感じられる。

そんなおり、複数の雑誌や新聞で紹介されているのを見て、岡田芳郎 『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか 』 講談社 といういささか長い題名の本を読んでみた。

「世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男」の名は、佐藤久一。彼は名門酒造会社を経営する父に請われ、若干20歳にして「グリーン・ハウス」という映画館の支配人となる。そして彼は、持ち前のサービス精神と発想力、実行力で、酒田の人々に映画を最高の状態と雰囲気で観てもらうことに心を砕き続け、ついには淀川長治をして「世界一の映画館」と言わしめるほどになる。

久一がこだわりをもって選び抜いた上映作品の数々、最新の映写音響設備、女性客を意識したきれいなトイレ。こんな映画館が近くにあったらオカダも通い詰めてしまうだろうなあ。

しかし久一は、やがて「グリーン・ハウス」も妻子も捨てて、女性と一緒に駆け落ち同然で上京してしまう。そして日生劇場のレストランで働くことになる。それから父に呼び戻され、今度はフランス料理店を始めることになるのだ。

久一の生き方の、なんと情熱的なことか。寝食を忘れて仕事にのめり込み、また魅力的な女性たちとの出会いがあり、67歳の生涯を全速力で駆け抜けたように見える。オカダの平凡な人生とは対極にある感じだ。そしてこの本の著者も同じように感じ、それ故に久一の人生を追いかけてみることにしたのだという。

もちろん、造り酒屋の御曹司という恵まれた環境にあったからこそなしえた面もあっただろうが、自分のやりたいことをとことんまで追求する精神には、感嘆するほかない。人口10万人の地方都市に、このような人物がいたということにも驚かされた。これも酒田の持つ底力なのだろう。

久一のような人が当地にもいてくれたらなあ、なんてついつい思ってしまった。

|

« 『米原万里の「愛の法則」』 | Main | 『めがね』 »

Comments

さて地元民から見た久一像をひとくさり。
かれは誰かに過剰なサービスを施している自分の姿が大好きだったのです。相手のためではなく自己陶酔型だったのでしょう。
金庫番に呆れられ、離れられてからは金のやりくりが付けられずに酒田を逃げ出した男ですよ。金持ち息子の道楽に近い営業だったことがよくわかります。
本来なら大火後にこそそのサービス精神を発揮していただきたかったと思っている酒田市民は多いと思いますよ。

って、否定的なことばかり言ってるとただの僻みみたいですね(笑)。
グリーンハウスは開演の合図に『ムーンリバー』が流れていました。あのけたたましいベルではなく。それだけでオシャレ。非日常を感じさせてくれる空間の演出に掛けては、当時右に出るものがいなかったと思います。しかもこんな田舎で。どのくらいのひとたちがこういったことに気がついていたのやら。

ところでこの本の装丁が見事だと思ったのはわたしだけでしょうか。長いタイトルを生かしたすっきりさ。ひとりの男の人生が四十二文字におさまっています。

Posted by: ヤヤー | 2008.04.24 at 02:59 PM

ヤヤーさん、こんばんは。

>本来なら大火後にこそそのサービス精神を発揮していただきたかったと思っている酒田市民は多いと思いますよ。

なるほど。やはりそういうところが、「なぜ忘れ去られたのか」の答えになるわけですね。地元の人としては、あまり思い出したくないというのが正直なところなんでしょうね。

実際にグリーンハウスに行ったことがあるんですね。開演の合図が『ムーンリバー』とは、さすがですね。2階の特別室もいきましたか。あんな場所でゆっくり映画を観られたら最高でしょうね。

この本の装丁、帯をはずして見てみましたが、確かにいいですね。文字だけなのにしゃれてますね。

Posted by: オカダ | 2008.04.24 at 06:06 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/84752/40971249

Listed below are links to weblogs that reference 『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか 』:

« 『米原万里の「愛の法則」』 | Main | 『めがね』 »