« 忙中閑あり | Main | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 »

2008.05.23

『胸の中にて鳴る音あり』

先日仕事で市内へ出かけ、お昼、いつものようにショッピングセンターでパンとコーヒーを買って、車の中で食べるつもりだったのだけど、その日は時間もあるしお天気もよかったので、近くの公園へ行ってみた。

Kouenlunch

鮮やかな新緑と咲き誇る花たちに囲まれ、さわやかな風を感じながら食べるハンバーガーはとても美味しかった。大袈裟だけど命の洗濯ができたように感じた。そして、しばし読書。

読んだのは 上原隆 『胸の中にて鳴る音あり』 文藝春秋。以前雑誌で紹介されていて、興味を惹かれた。著者の上原隆さんは、市井の人々の生き方に焦点をあてた「ルポルタ-ジュ・コラム」というのを書いてる人だそうだ。この本は、雑誌『文學界』に連載されたものと書き下ろしの1編も、全21編からなっている。

第1編は、『東大の時計屋』。東大の安田講堂の地下で、72年間時計屋をやっている人の話。その佐野さんは、たった一人で店をやっていて、奥様にも先立たれ、家でも一人だという。楽しみといえば、音楽を聞くことくらい。ペリー・コモ、ドリス・デイ、ザ・プラターズなど。そんな生活も悪くないという気がする。

この本で取り上げられているのはほとんどが文字通り市井の、無名の人々。不倫をしている女性、47歳になっても独身で、「親の見合い」にくっついてきている男性、文学賞に30回落選し続けている男性。小さい頃に両親が離婚して父親の顔を覚えていない女性。それぞれつらい人生を生きているのだけど、それでもなんとか自分を支えて生きている。そんな姿を読んで、生きることの悲哀とともに、生きていくことの希望も感じることができた。

淡々とした文章の中に、人生の機微が感じられた。筆者の、相手との微妙な間合いの取り方、暖かく相手を見つめる姿に、すごく好感が持てた。自分は話を聞くだけで、相手の役には立てないという割り切り方にも潔さを感じた。また、自分の離婚体験、恥ずかしい部分をそっとさらけ出しているところに対しては親しみを感じられた。

とてもいい本で、心から読んでよかったと思えた。タイトルは、石川啄木の歌からとったという。次は同じく『友がみな我よりえらく見える日は』を読んでみよう。

|

« 忙中閑あり | Main | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 »

Comments

男のひとのほうが「恥」に対してデリケートというか、傷つきやすいような気がします。
女性はけっこう面の皮が厚くなっていくので(でないと生きられないし)、一時のものだと割り切れるような。
で、だれでも大なり小なり脛に傷は持ってるわけで、自分だけじゃないんだと知ることってけっこう励まされたりしますね。
なかなかよさげな本を紹介していただきました。

ところで、外で食べるってどうして気持ちいいんでしょうねえ。不思議ですねえ。
まだまだお忙しいのかな?カラダには充分気をつけてくださいね。

Posted by: ヤヤー | 2008.05.27 at 02:50 PM

ヤヤーさん、こんばんは。
確かに男の方が、プライドが強くて傷つきやすいような気がします。それが自殺率の高さに表れているのかも。

>自分だけじゃないんだと知ることってけっこう励まされたりしますね。
そうですね。そういう点で、この本はちょっと落ち込んだときなんかにピッタリだと思います。

ほんとに、外で食べるのって美味しいですよね。すぐ思い出すのは、遠足のときのお弁当かな。あれは美味しかったですね。
どこで食べるかは、誰と食べるかと並んでとても大事ですよね。食べることを疎かにしちゃいけないなあと思いながらも、ついつい適当に済ませることが多いのでちょっと反省。

>まだまだお忙しいのかな?カラダには充分気をつけてくださいね。
ありがとうございます。気をつけます。

Posted by: オカダ | 2008.05.27 at 06:26 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/84752/41295252

Listed below are links to weblogs that reference 『胸の中にて鳴る音あり』:

« 忙中閑あり | Main | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 »