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2013.04.19

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

お待ちかねの村上春樹の新作、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。予約していたのに、入手できたのは14日。これだから田舎は……。それから3日かけて読んだ。

読み始めて感じたのは、これは短編のテイストだなということ。短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』に収められている短編小説群にも似た味わいを感じた。376ページというボリュームからすると、とても短編とは言えないのだけど、村上春樹の作品の中では長編というより短編よりやや長い中編小説という位置付けになるだろう。

本作は、実験的な作品『アフターダーク』とは異なり、オーソドックスと言っていい作品となっている。主人公の多崎(たざき)つくるは、デビュー作『風の歌を聴け』から幾度となく登場してくる「僕」そのものだということ。友人がほとんどいない、仕事をコツコツとこなし、プールに通って水泳をし、自分で料理を作る。それほど自分の能力、容姿にに自信はないけど、女性にモテる。それだけに主人公に感情移入しやすく、物語にも入り込み易かった。

物語は、「大学二年生の七月から、翌年の一月にかけて、多崎つくるはほとんど死ぬことだけを考えて生きていた。」という文章で始まる。それは、高校時代からの親しい友人5人組から唐突に理由なく排除されるという出来事からくるもので、一種のミステリー仕立てになっており、ぐいぐいと読まされた。

この作品の一番大事なテーマは「回復」だと感じた、一度失われてしまったものは、二度と取り戻すことができない。しかし、代わりに別のものを手に入れることで、その穴を埋めることは十分可能だと。余韻を残すエンディングであり、生きてゆくことへの希望を呼び起こしてくれる作品だった。

村上春樹の作品史の中においては、特に言及されることのない作品かもしれないけど、十分読み応えがあった。

表紙の絵は、今は亡きアメリカの画家モーリス・ルイスの「Pillar of Fire」(火柱)という作品。

作中に登場するラザール・ベルマンが演奏するリストの『巡礼の年』のCDが、5月に緊急発売されるという。もう一度、『巡礼の年』のCDを聴きながら、今度はじっくり読んでみたい。

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2013.04.05

『ペコロスの母に会いに行く』

Sakura0405

週末、近所のお寺へ桜を見に行ったら、満開には少し早かった。でも、明日からの雨で散ってしまうだろうなあ。

NHKBSで放送された、『ペコロスの母に会いに行く』というプレミアムドラマに興味を惹かれたので録画しておいた。

数日後、図書館に行くと、『ペコロスの母に会いに行く』の本があったので速攻で借りてきて読んだ。

作者の岡野雄一さんは、長崎在住の無名の漫画家。今は施設で暮らす認知症の母との日々を、4コママンガで描いている。

元々は自分が編集者を務めていたタウン情報誌に連載していたものを、集めて自費出版したところ、地元でかなり評判になり、それを地元の新聞社がエッセイや新作を追加して出版したという。

認知症の母との生活が、非常にユーモラスに描かれている一方で、母や、亡くなった父との思い出なども書かれおり、しんみりさせられるところも多くあった。また、途中に挿入されているエッセイも、非常に味わい深いものだった。

それから数日後、ドラマの方を見た。主役はイッセー尾形。母親役は草村礼子。岡野さんとお母さん本人が登場するドキュメンタリーの部分もあり、マンガのコマ自体を映したものや、アニメーションの部分もあり、ドラマの方も、本にはないエピソードがあったりと、非常にバラエティに富んだ内容だった。

どちらも、「忘れること、ボケることは、悪いことばかりじゃないんだ。母を見ていてそう思った」ということがメインテーマになっていた。オカダも、記憶力がいいことだけが取り柄だったのに、最近はどんどん物覚えが悪くなり、特に人の名前が出てこないことが多くなっている。嫌なこと、どうでもいいことは忘れてしまった方がいいってことだろう。

ドラマの方は放映が終わってしまったからともかくとして、この本はとてもいい本だった。

そして、映画化もされるという。どういう作品に仕上がるのか、楽しみだ。

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