2009.04.10

『猫を抱いて象と泳ぐ』

朝起きたら世界は死んでいた、じゃなくて、オカダの身体はものすごく不調だった。やむなく仕事はお休み。ひどい頭痛、高熱、胸はむかつき、お腹は重かった。頭を押さえてただ寝ていることしかできなかった。

二日目、目覚めたらだいぶましになっていた。大事をとってもう一日お休み。本を読めるくらいには体調が回復したので、小川洋子 『猫を抱いて象と泳ぐ』 文藝春秋 を読んだ。

唇に産毛の生えている少年は、とあるきっかけでチェスを覚え、やがて天才チェスプレイヤー アレクサンドル・アレヒン(アリョーヒン)に因んで「リトル・アリョーヒン」と呼ばれるようになるが、そのプレイスタイルは独特のものだった。

まさに小川ワールドとも呼ぶべき小説だった。日本ではないことは確かだけど、ヨーロッパのどこの国かわからない、無国籍とでも言うべき舞台、そしていつのことだかわからない時代背景。内向的で、自分の世界に閉じこもっている主人公。彼を見守る人物たちも、同様に心優しく儚い。そして、紡がれるエピソードの一つ一つが優しくて哀しい。世界は不運や邪悪な人間に溢れているけれど、その中でひっそりと肩を寄せ合って生きていくことができればそれは幸福なことだろう。

外は春爛漫。太陽は暖かく、花々は咲き誇り、小鳥たちのさえずりもにぎやか。そんな中ベッドで本を読んでいると、世界から取り残されてしまったような気持ちになった。そういう気分で読むのにピッタリの本だった。

この小説ではチェスが重要なモチーフになっている。リトル・アリョーヒンが行う数々のゲームについての描写は、非常にドラマティックかつ寓意に満ちている。それも、スポーツのような情熱的な感じではなく、ダンスのような芸術的なものとして描かれている。

でも、チェスがどんなゲームか知らなくても、この小説を味わうのに全然支障はないと思う。オカダは、子どもの頃にちょっと遊んだことがあるので、大まかなところは知っている。日本の将棋と比べると、王(キング)をとられたら負けなのは同じだけど、相手の駒を取っても自分の駒として使うことができないところが大きく違う。

この小説は、小川さんの現時点での最高到達点と言えるだろう。『ダ・ヴィンチ』4月号でも、巻頭の「今月の絶対はずさない!プラチナ本」として紹介されていた。でも、好きな人と嫌いな人にはっきり分かれそうな作品だと思うけど。

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2007.09.21

『薬指の標本』

小川洋子さんの『薬指の標本』という小説が、フランスで映画化されたそうだ。それで、その原作を読んでみた。

物語の舞台は「標本室」。技術士の弟子丸氏が人から依頼を受けて標本を作り、主人公の女性はその事務的な手伝いをしてる。そこでは依頼人の希望であらゆるものが標本にされる。やがて、二人の関係に変化が表れ始める……。

現実と異界とのあわいが曖昧になってしまうような、なんとも不思議な物語。幻想的で、ちょっとエロティックで、そして何ともやるせない結末。とても心に残る小説だった。

ネットで調べたら、映画のDVDが既に発売されている。これは是非見てみたい。

文庫本に収録されているもう一つの『六角形の小部屋』も、同様に不思議な、独特の味わいのあるお話で、心に引っかかった。

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2006.11.17

犬のしっぽを撫でながら

きのう、11月の第3木曜日はボジョレー・ヌーヴォーの解禁日。仕事帰りに酒屋さんに寄って、予約しておいたヌーヴォーを受け取り、夜早速飲んでみた。

Bojores

今年は天候に恵まれていい出来だという。日本のはるか彼方、フランスのボジョレー地区に降り注いだ太陽や雨などの自然の恩恵に感謝しながら、味わって飲んだ。

ボジョレー・ヌーヴォーを飲むようになって今年で3年目。たまたま行ったディスカウントの酒屋で売り出しをしていたので買ってみたのがきっかけだった。ヌーヴォーを飲むと、もうすぐ冬がやってくるなあと思う。残念ながら気の利いたツマミを用意してなくて、読みかけの本をツマミにした(笑)。

オンライン書店ビーケーワン:犬のしっぽを撫でながら

その、読んだ本がこれ。『博士の愛した数式』の作者、小川洋子さんのエッセイ集。様々な媒体に発表した文章に書き下ろしを加えたもので、中には『月刊監査役』なんて雑誌も。

昔からのファンとしては、あまりメジャーになって欲しくなかったのだけど、こういう本が出版されたのも、『博士の愛した数式』でブレイクしたおかげだろうから、良しとしないとなあ。

文章は、数の不思議について、書くことについて、影響を受け続けるアンネ・フランクについて、犬や野球の話、家族と思い出について、の5つに分類して収められている。小川さん流の、小説の書き方なども書かれてあって、とても興味深かった。

また、フランスのプロバンス地方のフーヴォー村で開催された文学フェスティバルに招かれて行ったときのことも書かれていて、そのときの体験に触発されて、以前このブログでも取り上げた『ブラフマンの埋葬』という小説を書いたという話も面白かった。

オカダは、かなり前に小川さんにお目にかかったことがあるのだけど、そのときは、ごくごく普通の真面目なお嬢さんという印象だった。この本を読んで、その印象どおりの穏やかな面を感じた。でも、内面にはいろいろなものを抱えていて、それらを小説という形で昇華させているんだろうなあ。

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2005.10.20

『ブラフマンの埋葬』

オンライン書店ビーケーワン:ブラフマンの埋葬

小川洋子『ブラフマンの埋葬』講談社 を読んだ。本屋大賞を受賞した『博士の愛した数式』の次に出された小説。夏のはじめのある日、僕の元にやってきたブラフマンという小動物と僕との物語。このブラフマン(Brahman)というのは、ウィキペディアによると、ヒンドゥー教またはインド哲学における宇宙の根本原理ということだ。

この小説の舞台は、『創作者の家』。主人公の「僕」はそこの管理人をしている。ブラフマンがどんな動物なのかは最後まで分からないが、その可愛さ、「僕」が注ぐ愛情は十分過ぎるほど伝わってきた。

それほど長編ではないので一気に読んでしまったが、まさに佳作(よい作品)というにふさわしい小説だと思う。読み終えて、なんとも言えない透きとおった哀しみと、ある種のさわやかさを感じた。

石棺や季節風などが登場してきて、舞台が日本ではなく南欧のような印象を受けた。美しい風景が心に浮かんできて、『トニー滝谷』の市川準監督に映画化してほしいような作品。

ちなみに、オカダは作者の小川さんの恥ずかしい過去を知っている。興味のある方はコメントをお寄せください(笑)。

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